高分解能マススペクトル測定から元素組成の推定


 12Cの原子量の1/12を統一原子質量単位(unified atomic mass unit:u)あるいはダルトン(dalton:Da)と呼びます。
 12Cの質量を12.000000と決めこれを基準に各原子の精密質量を見ると小数点以下に端数が現れてきます。たとえば1H=1.007825、14N=14.003074、16O=15.994915の様に(資料集 元素の同位体精密質量と天然存在比を参照)。そこで、装置の分解能を上げ0.0001uあるいは0.0001Da程度の精度で測定し端数を計算することにより元素組成の推定が可能になります。
 高分解能マススペクトル測定を行う場合正確な精密質量数を求める必要があるため、予め精密質量が解っている標準物質(PFKやPEGなど)と一緒に測定し、標準物質で目的の質量を挟むようにします。標準物質のピークは前後2本必要です。図1はバニリン酸(Vanillic acid:C8H8O4 = 168.0423)を測定(DEIにて)した例です。その後キャリブレーションし精密質量を求めます(図2)。それを元に元素組成の算出した結果が表1です。分子イオンとM-CH3イオンの元素組成が算出されています。表2はステアリン酸メチル(Stearic Acid Methyl Ester : Methyl Stearate:C19H38O2 = 298.2872)、表3はヒドロコルチゾン(Hydrocortisone:C21H30O5 = 362.2093)およびコレステロール(Cholesterol:C27H46O = 386.3549)、図3ならびに表4はFullerene C60を測定(DEIにて)した例です。表5は低分子のベンゼンをGC/MSで測定した結果です。
精密質量スペクトル
図1 バニリン酸の精密質量測定
精密質量スペクトル
図2 バニリン酸の精密質量測定結果
C60精密質量スペクトル
図3 Fullerene C60の精密質量測定結果

 Observed m/z    Int%    Err [ppm / mmu]    U.S.    Composition  
153.0046 61.5 -92.7 / -14.2 5.5 C 7 H 5 O 4
+7.0 / +1.1 1.5 C 3 H 5 O 7
168.0441 100.0 -80.0 / -13.4 9.0 C 12 H 8 O
+10.8 / +1.8 5.0 C 8 H 8 O 4
-115.0 / -19.3 0.0 C 5 H 12 O 6
+101.5 / +17.1 1.0 C 4 H 8 O 7
表1 バニリン酸の元素組成算出結果

 Observed m/z    Int%    Err [ppm / mmu]    U.S.    Composition  
298.2877 100.0 +1.7 / +0.5 1.0 C 19 H 38 O 2
表2 ステアリン酸メチルの元素組成算出結果

 Observed m/z    Int%    Err [ppm / mmu]    U.S.    Composition  
362.2090 19.1 -1.0/ -0.4 7.0 C 21 H 30 O 5
386.3591 13.0 -11.0/ -4.3 5.0 C 27 H 46 O  
表3 ヒドロコルチゾンおよびコレステロールの元素組成算出結果

 Observed m/z    Int%    Err [ppm / mmu]    U.S.    Composition  
719.9987 100.0 -1.9/ -1.3 61.0 C 60
表4 Fullerene C60の元素組成算出結果

 Observed m/z    Int%    Err [ppm / mmu]    U.S.    Composition  
78.0463 100.0 -8.3/ -0.6 4.0 C 6 H 6
表5 Benzene C6H6の元素組成算出結果

 元素組成演算を行う時ただ闇雲に行うのではなく、予め
  1. 構成元素の種類
  2. 各構成元素の最大数
  3. 測定許容誤差
を調べて行わなければ膨大な数の組み合わせの候補が算出されます。また、他の装置(NMRなど)の結果等を参考に行えばより正確な結果を得られます。
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