質量分計

・質量分析計

 質量分析計(Mass spectrometer)とは、質量分析を行うための装置です。装置を大きく見ると、1. 試料をイオン化するイオン源(Ion source)、2. 生成されたイオンを質量と電化の比で分離する分析部(Analyzer)、3. 分離されたイオンを検出する検出部(Detector)、4. 検出されたデータを解析処理するデータ解析システムの4つに分けられます。さらにイオン源には測定試料を導入するための試料導入部が附属します。"質量分析計の構成"を見るとわかる様に一部のイオン化(大気圧イオン化:ESI、APCI)を除き通常は高真空(10-5〜10-7Torr)に維持されています。高真空を維持するために排気系(油拡散ポンプまたはターボ分子ポンプおよびロータリーポンプ)も附属します。高真空に維持する目的は、生成したイオンが安定且つ分解せずに検出器まで到達させるためです(大気圧中では多量の空気:窒素や酸素が邪魔をしてなかなか飛んで行けません。例えるなら朝のラッシュ時に都庁から新宿駅に向かう状況でしょうか?。また、それらに衝突しイオンが開裂を起し分子量情報が得られなくなります。)。また、EIやCIの場合フィラメントを用い熱電子を発生させその熱電子をイオン化に利用しますが、大気中でフィラメントに電流を流すと当然フィラメントが酸化され焼け切れてしまいます。

質量分析計の構成
質量分析計の構成

・イオン源

 質量分析とはでも説明したように、質量分析は試料を気体状のイオンにしなければ行えません。そこでこれまで数多くのイオン化法が考案・実用化されてきました。また、今後も新しいイオン化が考案されて行くでしょう。
 現在この装置で利用出来るイオン化法に関してはイオン化で説明していますが、ここでは代表的なイオン化の簡単な原理について解説します。

・EIイオン源

 (真空中で)電流を流し高温に熱せられたフィラメント(Filament:レニウム、タングステン等)から発生した熱電子は電子トラップ(Electron trap)に向かって飛んで行きます。この時のフィラメントとイオン化室との間に印可した電圧がイオン化電圧(Ionization voltage)で通常は70eVに設定されています。また、フィラメントと電子トラップとの間に流れている電流をイオン化電流(Ionization current)と呼びます。この状態のイオン源に試料導入系から試料が導入されると、熱電子により M + e- → M+・ + 2e- と分子イオン M+・が生成されます。生成した分子イオンやそれから発生したフラグメントイオンはリペラー電極によりイオン源から押し出され、イオン化室に印可された加速電圧(Accele voltage)により加速され、各レンズでイオンの広がりが収束されて分析部へと導入されます。
 イオン源を磁石で挟むことで、フィラメントを飛び出した熱電子が磁場により螺旋を描きながら電子トラップへむかいます。その事により、熱電子のイオン化室内滞在時間が増し試料分子Mとの接近遭遇の機会が増えイオン化効率が上がり感度が増します。
EIイオン源の模式図
EIイオン源の模式図

・CIイオン源

 密閉型のイオン化室にメタンなどの試薬ガスを導入し、比較的高圧(EI法に比べ:1Torr前後)を保ち試薬ガスに対しEI法を行いイオン化させます。そこに試料導入系より試料を導入する事により、試薬ガスイオンと試料がイオン分子反応を起し試料のイオン化が行われます。イオン化はEI法に比べ「ソフト」に行われるため分子量関連イオンが顕著に測定されます。以前は擬分子イオン(Quasi-molecular ion:QM+) と呼ばれていましたが現在では薦められていない用語です。
 試薬ガスとしては、メタン、イソブタン、アンモニアが主に用いられています。なお、CI法はイオン分子反応を利用したイオン化法のため、試薬ガスの圧力、イオン化室の温度等が変化すると測定スペクトルのパターンが変化するため注意が必要です  

メタンの場合

 M + CH5+ → [ M + H ]+ + CH4 プロトンの付加:主反応
 M + C2H5+ → [ M + C2H5 ]+ 反応イオンの付加
 M + C2H5+ → [ M - H ]+ + C2H6 ハイドライドイオンの引き抜き
 

イソブタンの場合

 M + (CH3)3C+ → [ M + H ]+ + (CH3)2C=CH2 プロトンの付加:主反応
 M + (CH3)3C+ → [ M + (CH3)3C ]+ 反応イオンの付加
 M + (CH3)3C+ → [ M - H ]+ + (CH3)3CH ハイドライドイオンの引き抜き
 

アンモニアの場合

 M + NH4+ → [ M + NH4 ]+ 反応イオンの付加:主反応
CIイオン源の模式図
CIイオン源の模式図

・FABイオン源

 6KV程度に加速したXe原子またはAr原子をグリセロールなどのマトリックス(Matrix)に溶解させた試料に衝突させてイオン化を行う方法です。ここで使用する高速原子はFAB銃で作成されます。まず、FAB銃イオン化室内でEIイオン源と同様のフィラメントによる熱電子でXe原子をイオン化します。イオン化されたXeは6KV程度に加速され電荷交換室へ向かいます。電荷交換室には中性のXe原子が満たされており、そこで電荷交換反応が起きイオンビームは運動エネルギーを失うこと無く中性Xe原子ビームへと変換されターゲット上の試料へ向かいます。電荷交換を行わず、イオンのまま衝突させる方法はLSIMS(Liquid secondary ion mass spectrometry)といいます。
 生成イオンは[ M + H ]+、[ M - H ]-のほか、マトリックスやNa、Kなどが付加したイオンも観測されます。
 主なマトリックスはこちらを参照して下さい。
FABイオン源の模式図
FABイオン源の模式図

・ESIイオン源(大気圧イオン化:API)

 高電圧(3〜5kV)を印加したニードルにマイクロシリンジ(シリンジポンプを使用)やHPLC等で試料溶液を送り込みます。するとニードル先端の強い電場のため、先端部溶液中で正と負のイオン分離が起こります。正の高電圧を印加した場合は、試料溶液表面に正イオンが集まり、対向電極(キャピラリ)に引き寄せられるためキャピラリに向かって円錐状に伸びてゆきます。この円錐をテイラーコーン(Taylor cone)と呼びます。テイラーコーン先端より引き伸ばされた試料溶液は引きちぎられ過剰に帯電した微細な液滴となりキャピラリに向かってスプレーされます。安定したスプレーを行うためには適当な電気伝導度とある程度表面張力を押さえる必要があります。
 正イオン測定モードではタンパク・ペプチドなど塩基性アミノ酸を含む試料の場合、塩基性アミノ酸にプロトンは付加するため多価イオンとしてイオンが生成されます。この場合デコンボリューション(Decovolution)という操作を行う事で本来の分子量を求める事ができます。
ESIイオン源の模式図
ESIイオン源の模式図

・分析部

 イオンを分離する手法(分析部)の違いから、磁場型四重極型(イオントラップを含む)、飛行時間型、イオンサイクロトロン型などの種類が有ります。

・検出部

・データ処理システム

・試料導入部

 イオン源に試料を導入する方法には、直接イオン源内に試料を導入する直接試料導入と各種クロマトグラフィー(GC、HPLC、TLCなど)と組み合わせる方法があります。

・排気系


質量分析の部屋